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「やんばる畑人プロジェクト」や「on the farm」をはじめ様々な取り組みで地元の食材の魅力を発信しつづける芳野幸雄氏(「農業生産法人株式会社クックソニア」代表)。そして、2021年にオリエンタルホテル沖縄の総料理長に就任した中村聖氏。両者は沖縄本島の北部に広がるやんばるの野菜を取り入れたメニューや自然遺産としてのやんばるの魅力を伝えるサービス展開を模索する中で交流を深めている。果たして、それぞれが見ている景色はどのようなものなのだろうか。そこにはやんばるの真価を見出しながら、エシカルに旅することを支える農業と食の新しいコミュニケーションがしっかりと育まれていた。
中村:海の魚を見ると明確ですが、強烈な紫外線に負けないような色を着けてますよね。緑黄色野菜や果物もしかりで、日差しの強さや暑さに負けない力強さがありますね。過酷な状況に打ち勝つような生命力が味や香りから滲み出ています。言葉では言い表しにくいんだけど、手に取った時にエネルギーを感じます。
芳野:野菜が力強いのは沖縄ならでは。温暖化によって沖縄より気温が高くなっている地域は広がりましたが、絶対に真似できないのが真上から照りつける太陽です。北緯24度から28度に位置する沖縄に照りつける太陽の紫外線から自分たちを守るために美味しくなっていると言えるでしょう。
ただ、沖縄の消費者はまだまだ地元にないものを欲しがったりする状況があります。大根一本とっても、九州産に比べて沖縄産は少しだけ値段が高い。けれど、それっておかしいですよね。九州から運んでくるほうが輸送代もかかるわけですから。生産者さんにどれだけのお金が入っているのかまで考えて地元のもとを食べるということを普及させたいという思いもあります。
芳野:家で食事をする機会が増えたり、地元の方が沖縄のホテルに宿泊するようになりました。そんな中で、地元の食材を使うホテルが増えたり、各地域でのファーマーズマーケットが賑わったりすることはうれしいことですね。実際に自宅で沖縄の食材を楽しもうというメッセージを発信すると、それに呼応するように今までいらっしゃらなかったお客さんがやんばるの野菜を買いに来てくれています。これを一過性のものにしないで、売る方も買う方ももっともっと地元の食材に目を向けていく状況が深まるといいですね。
中村:小さな規模で農業を営まれている生産者さんたちが作ったものを地元で消費していく。つまりそういった生産者さんたちの生活が成り立つような仕組みという意味でも地産地消は大切です。その土地のものを食べることは輸送コストも下げるので、CO2の削減にも繋がる。SDGsの観点からも地産地消を推進する必要があります。生産者さんも生活の基盤が安定すれば、新しい野菜を作ってみようという気持ちになるし、それに対して料理人もリクエストをできるようになる。生産者と料理人の関係が活性化していくのも利点のひとつですね。
芳野:僕たちは全体で15人ほどで動いているんですけど、安定的に売れていく息の長いシーズンの野菜については5人くらいのグループで生産しています。我々の卸し先は栽培基準も厳しく、農薬を減らすものや、ましては使わずにという場合もあるので、それに応じてしっかりと栽培計画を立てます。例えば、東風の影響で大宜味地区の生産が難しくなったときは、西側の農家がフォローできるというように、やんばる全体に散らばる生産地で補完し合えるような計画です。6月頭から11月までの出荷であれば、その間に栽培する量を予め決めて、取引先との契約を結びます。その時点で全体の金額が決まっているわけですね。なので、台風の影響で市場に野菜がなくなって値段が上がっても、我々が出荷するものの値段は同じ。つまり、市場の状況で値段が変動しないので、農家の生活が安定するんです。これまでは値が高いときに大きく出荷して売り抜けるという博打的な考えがありましたけど、今の若い生産者は自分のライフスタイルの中に“農”を取り入れてしっかりやっていきたいという人が多い。生計が安定して、安心して農業に打ち込めるので、例えば先ほど中村さんがおっしゃったような料理人との絆ができてくると、あれ作れないの?これ作れないの?みたいなキャッチボールができるようになる。余裕が出てくるんですよ。新しいもの作ると最初は失敗するんで、普通はやりたがらないですけど、我々のやり方だと基盤が安定しているので色んなことに挑戦ができる。ここ数年でそういった新しいチャレンジも楽しみながら農業に従事するという環境ができてきました。受注・発注と生産をワンストップで行うので、従来のやり方から浮いたお金を生産者や消費者に還元できる。もちろん理解いただいて関係性がしっかりとできている飲食店や小売店があってこその環境なので、今回のようにオリエンタルホテル沖縄でやんばるの野菜を使っていただくという取り組みは歓迎すべきことです。
芳野:インバウンドが活況を見せていた頃に顕著だったのは県産にこだわらずにとにかくたくさんのお客さんに安く届ける利益追求型のサービスです。一方でその反動のように、地元の新鮮なものを食べてもらいたいという生産者や飲食店が増えてきているのはこれまで語ってきた通り。大きな視点では、後者によるサービスこそが本当のやんばるを感じることができるものだと思います。そういう意味で地産地消ということが重要になってくる。僕たち自身が地元のものを食べて暮らして、それが地元の豊かさに繋がって、地元の魅力が深まる。そんな場所になれば利益追求型のサービスを受け入れられないだろうし、地元の人がそのようなサービスを旅行者に紹介することもないですよね。だから、地産地消の価値を伝えながら、僕たちの活動をもっともっと強くしていかなければいけないと思っています。観光の醍醐味って、地元のありのままを感じることじゃないですか。その魅力を伝えるようなお店がどんどん増えてくればいいし、ホテルに関しても朝食や夕食で地元のものを味わえるということが選ぶ基準になってくるんじゃないでしょうか。
中村:当ホテルはまさにやんばるの入り口にあります。食を切り口にしたサービスという意味では、我々だけではなく、地域全体で手を取りながら魅力を伝えていかないとうまくいかないと思います。事業者だけでなく、生産者、さらには行政も一緒にというように。
芳野:そうですね。生産者の一番の楽しみは自分の作った野菜がどう料理されているのかを感じること。on the farmに料理人を呼んで地元の食材で美味しい食事を作ってもらうと、それがそのまま生産者たちの励みにもなります。市場価値で決まってしまうのとは対極にある、本当の評価ですよね。また、その流れの中で、料理人と生産者が直接交流することで、市場に出回っていない貴重な食材の発見につながります。そこに価値が生まれて、観光客の方にも伝われば、やんばるでしか味わえない特別なものという新しい魅力が生み出されますよね。
中村:規格から外れるようなものを農家さんから紹介してもらうと、料理人はそれをどう料理しようか腕が鳴ります。それが料理人の仕事でもある。うまく地域の農家さんたちと絡み合うことができれば、流通に乗らないようなスペシャルで滋味溢れる食材との出合いが生まれますよね。これまでは捨てていたようなものに価値が生まれる。料理人だけでは発見できないし、農家さんから提案をいただいて、それを受け止める懐の深さも要求されます。そこに新しいサービスの可能性があるだろうし、観光客はもちろん地元の方にも楽しんでもらえることが生まれるんじゃないでしょうか。そういった農業と食、双方向からのポジティブなコミュニケーションの中で、オリエンタルホテル沖縄を窓口にしてやんばるを美味しく、楽しく旅することの魅力を伝えていきたいですね。